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バクは言った。

『とどまってはいけないよ。捕らわれてしまうから』――と。

僕はその言葉を鵜呑みにはしなかったけれど、けして忘れもしなかった。

その証拠に、僕は毎年送られてくる絵はがきをコルクボードに張り続け、世界地図を三枚も買った。

一枚は部屋用に、一枚は外出用に、そしてもう一枚は予備のために。

地図を買ったのは、消印から「彼女」の軌跡を追いかけるためだ。

ロンドン
アムステルダム
ウィーン
イスタンブール
ナイロビ
ケープタウン
ニューカレドニア
コバン
シアトル
そして、ケベックシティ

なるほど。

確かに「彼女」は一年と同じ場所にとどまっていることはなかった。

まるで深海を廻遊するクジラのように、優雅に世界中を泳ぎ回っている。そんな風に僕の目には見えた。

部屋の世界地図には十の街が赤い蛍光ペンで塗りつぶされ、僕の下手くそな字で日付が書き込まれていた。

つまり、僕はそんな彼女の足取りを、もう十年も見てきたことになる。