「この街に似ていると思わない」

いつだったか、早紀がそう言っていたことを思い出す。

「そうかな」と答えると、「そうよ」と怒ったように言ってよこした芝居くさい顔も。

カナダと鯨。

何かのメッセージだろうか。

僕は部屋から古いロッキングチェアを引っ張り出し、絵はがきを窓の外に広がる水平線にかざした。

カナダ、カナダの海、大西洋、深海流、氷河、あるいは運河、捕鯨船、海賊、浜に打ち上げられた鯨たち……

分からない。

そもそも僕にはカナダや鯨の知識がほとんどないのだから、いくら絵はがきを眺めたところで何かを閃くはずもない。

「やれやれ」

僕はそれをテーブルに放り投げ、それこそまるでクジラのようにゆったりと足を組んだ。