傘も差さずに歩いた。

いつもの公園のベンチに腰掛け、僕は黒々と濁ったエディンバラの空を見上げた。

振り返ると、公園の隅に煉瓦造りの家が建っていて、煙突の側から風見鶏が僕を見下ろしていた。

僕は一人でベンチを立ち、その古びた家の玄関を押した。

玄関は音もなく開いた。

「ようこそ」

やけに広いエントランスの奥から、柔らかい女性の声がした。

「どうも」

僕は吹き抜けの天井を見上げながら、奥の部屋へと足を運んだ。

歩くたびに、ベタリ、ベタリと床に大きなシミが広がっていった。

「お待ちしていたわ」

部屋にたどり着くと、車椅子の少女が僕を見つめていた。

「私が」

「ジェシカ。ヒースの送り主」

僕が遮るように尋ねると、少女はニコリと微笑んで、「そうよ」と言った。