行くあてのない僕たちは、ひとしきり街を散策すると、昨夜から気になっていたエディンバラ城へと向かうことにした。

街は、静かに動いていた。

テラスでくつろぐ老人も、路地を駆け回る子供たちも、紙袋に山ほどのリンゴを詰めて歩く母親も、街ゆく人々の背中がみな、一様にこの街を愛し、今ある幸せを喜んでいるように見えた。

愛を感じた。

息吹を感じた。

歴史と文化に根付いた人々の暮らしと営みがそこにあった。

緑豊かな坂道を登ると、緩やかなカーブの先にエディンバラ城が見えた。

両脇に建ち並ぶ民家の庭や窓には色とりどりの花が植えられ、ともすれば重たくなりがちな北方の街を明るく飾っていた。

シロナが子供に手を振った。

それに気づいた子供が、嬉しそうに両手を広げて振り返した。

僕はシロナの手を握った。

シロナは僕の肩に頬を寄せ、その手を優しく握り返した。

とても温かい手だった。