「さよなら、ヨーク」

ヨーク大聖堂の豪奢なツインタワーが、列車の揺れに合わせるように、少しずつ遠くに流れ去っていく。

窓に映った僕の顔は、くしゃみをした紙袋のように歪んで見えた。

かさついた手のひらを陽にかざすと、血が通っているのかさえ定かでない血管がうっすらと透けて見えた。

それでも顔色は随分よくなったと、シロナは健気に微笑んでくれた。

かざした手のひらを握りしめた。

握力のない、女のような手だと思った。

僕は窓に額を当てた。

ロンドンを離れてからというもの、僕の精神は分裂と再生を繰り返し、せめぎ合っているようだった。

明と暗。

生と死。

解放と支配。

僕は、僕自身の精神構造の中で生じているこの奇妙な感覚を、巧く表現することができないでいた。