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僕たちを乗せた列車は、ほぼ定刻どおりにキングスクロス駅を出発した。

すぐに屋根の影が途切れ、淀んだロンドン特有の空が視界に広がる。

流れ去る車輪の音を聞きながら、僕たちは中程の車両の座席を確保し、旅行鞄を荷台に押し込んだ。

座席は二人ずつが向かい合わせに座るオーソドックスなタイプで、シートには深い緑色のビロードが張られていた。

「窓、開けてもいい?」

「手伝うよ」

僕たちは互いに窓の端と端を掴み、立て付けの悪い窓を五分がかりでようやく少しだけ押し上げた。

差込む風にシロナの髪がなびく。

「静かね」

それを手で押さえながら、シロナが車内に目を向けた。

乗り合わせているのは仲の良さそうな老夫婦と、早々と居眠りを始めた初老の男性。五歳くらいの子供を連れた母親と、学生らしきカップルが一組。

時折ガタガタと列車が揺れる以外、至って車内は静かだった。