「あのお!」

僕はフロントで退屈そうに居眠りをしていた老婦人に声を掛けた。

「あら、お帰りなさい」

老婦人はずれた眼鏡を掛け直し、ニコリと微笑んで見せた。

「もう用事は済みましたの?」

「ええ、まあ。それより一つ尋ねたいことがあるんです」

「何かしら?」

身を乗り出さんばかりの勢いの僕に、老婦人が小さく首を傾げた。

「あの花のことです」

「花?」

老婦人は僕が指さす先に目を遣り、「ああ、あの花ね」と頷いた。

「この時期になると毎年届くのよ」

「毎年?」

「誰から?!」

矢継ぎ早に質問を浴びた老婦人は、つぶらな瞳をクルクルと踊らせた。