アデルフィ・ホテルに戻ると、ロビーの花瓶に赤ともピンクともつかない淡い色をした花が添えてあった。

それは、間違いなく昨日見た花とまったく同じ花だった。

「……ヒースじゃ」

その花を見るなり、山猫教授は目をまん丸に見開いた。

「やっぱり」

僕はシロナと顔を見合わせた。

やはりこの花がヒースだったのだ。

偶然だろうか。などという思いは微塵も湧いてこなかった。

ジェーンが最期にもう一度見たいと言った花がここにあって、僕たちは導かれるようにこの古ぼけたホテルの扉を押した。これが偶然であるはずがない。

「何じゃ。知っておったのか?」

「ええ。昨日ここで見たのよ。今朝は空っぽだったけどね」

「空っぽ?」

「活け代えるためよ」

「なるほど」

シロナが説明すると、教授は納得した様子で顎を引いた。