山猫教授が話し終えると、シロナはポロポロと涙を流し、庭の片隅に座り込んだ。

その肩に触れた僕の目の前に、断頭台のオブジェが置かれていた。

観光客はその前で十字を切り、黙祷を捧げると、記念写真を撮ってはまた別の塔へと消えて行った。

「ねえ……それって本当にヒースの花だったのかしら」

とシロナが言った。

僕も山猫教授も黙っていた。



……夏になれば、

野にヒースの花が咲く……



ジェーンはそれまでに故郷に帰ることを願い続け、二月に生涯を閉じた。

「ヒースだよ」と僕は言った。

「そうとも。ジェーンは最後に願いを叶えることができたんじゃよ」と山猫教授も頷いた。

「そうね……そうよね」

シロナは涙を拭って立ち上がり、十字を切って黙祷を捧げた。

僕と教授がそれに倣うと、暖かい風がロンドン塔の中を通り抜けていった。