しばらくののち、獄卒に促されたジェーンは再び歩き出した。

その足取りにはもう、一欠片の迷いも躊躇いも見られなかった。

いよいよ処刑場の前まで来たとき、ジェーンに目隠しが施された。

最期まで毅然とした態度で処刑台を探すジェーンの手を、司祭が優しく掴んだ。

「神よ」

司祭の声が耳に届いた。

「嗚呼、神よ!」

くずおれる侍女の嗚咽と叫びが、タワー中に響き渡った。

ジェーンは静かに息を吐いた。

彼女の脳裏には、先ほど見た中庭の光景が広がっていた。

『これで私は故郷に帰れる』

純白の目隠しの下から、透きとおった一筋の涙が伝い落ちた。



ジェーンが去った通路の窓の先には、美しく咲き誇ったヒースの花びらが、冬の風に揺られていた。