1554年2月12日朝――

ジェーンは処刑台に向かう夫ギルバート・ダドリーの後ろ姿を、タワーの中から見つめていた。

『次は私だ』

ジェーンは静かに目を瞑り、それから壁に名を刻んだ。


『IANE』


それを見た侍女のエレンが、涙を零してジェーンに問うた。

「お嬢様、これは?」

「私の名前よ」

「ですがスペルが……」

「いいの」

ジェーンはニコリと微笑んだ。

「私はここで処刑されるけれど、私の魂はきっと自由になるはずよ」

――そうすれば、私はあのヒースの野に帰ることができる。

ジェーンは侍女にそう言った。

「ここで果てるのは魂(本名)じゃない。だから、一文字だけ変えておくわ」