特赦には理由がいる。

たとえ担がれただけであったにせよ、ジェーンはクーデターの中心に居たのだ。このままでは処刑は免れない。

メアリーは一案を講じた。

それは、ジェーンがカトリック教徒へと転身することを条件に、斬首刑から終身刑へと特赦するというものだった。

しかし、ジェーンは決して首を縦に振ろうとはしなかった。

ジェーンは分かっていた。仮に処刑を免れることができたとしても、もうこの塔から出ることは一生叶わないことを。


「私は、帰りたいのです」

ジェーンはただそれだけをうわ言のように繰り返した。


帰りたい。
帰りたい。

あの懐かしい故郷へ。

家族と語らい、乗馬を楽しみ、無心に勉学に励んでいたブレイドゲートへ……


ジェーンは瞳を閉じた。

夏になれば、野にヒースの花が咲く。可憐で力強いヒースの花が。

ジェーンの瞼の裏に、赤ともピンクともつかぬヒースの花が、野原一面に広がる光景が浮かんでいた。