「行くかの」

壁の前で黙考している僕の背に、山猫教授が声を掛けた。

「どこに?」とシロナが訊ねる。

「実はこの話にはあと少しだけ続きがあるんじゃ。それを聞かせてやろう」

「続き?」

「そうじゃ。それにこれ以上ここにいては迷惑が掛かる」

「ええ……」

シロナが戸惑い気味に僕を見ると、教授は柔らかく微笑んだ。

『着いてくれば分かる』

教授の表情はまるで、そう言っているように見えた。


「行こう」と僕は言った。

石のように固まっていた腰を上げ、頷いてみせると、見えないはずの教授の尻尾がクルリと動いたような気がした。