「そいつは違うな」

壁を凝視する僕たちの後ろで、教授が静かに首を振った。

「違う?」

「違うって、つまり絵はがきの文字じゃないってこと?」

二人して矢継ぎ早に食ってかかると、教授は違う違うと言ってもう一度首を振った。

「レディ・ジェーン・グレイ」

「……え?」

その名を聞いた瞬間、心臓の鼓動が一気に速まった。

教授は続けた。

「彼女もまた、この塔に幽閉された囚人の一人じゃった」

「でもこれ、イアンって……」

喋ることすらもどかしそうに、シロナが教授に詰め寄った。

「JANE、じゃよ」

「うそ……」

「嘘ではないさ」

教授はシルクハットをかぶり直し、まるで娘を見つめる父親のような瞳で壁の文字を見下ろした。