僕はその芸術的とも言える無数の彫刻を指でなぞり、手のひらから伝わる寒々とした感覚に体を振るわせた。

恐怖、

憎悪、

後悔、

懺悔、

恨み、

苦しみ。

数百年に及ぶ歴史の中で、いったいここでどれほどの心の痛みが産まれ、消えていったことだろうか。

今や観光地として世界中の旅行客が往来するこの塔が、かつてはそうした陰惨な場所であったという事実に、僕は拭い去れない違和感を覚えずにはいられなかった。

「行こう」

僕は山猫教授とシロナを促し、部屋の壁から手を離した。

――と、その時、

僕は何かに吸い込まれるように壁のある一点を凝視し、立ちつくした。