教授が向かった先は、ロンドン塔の中でもひときわ古びた塔だった。

「ここは?」

螺旋状になった階段を登りながら、シロナが教授の背中に訊ねた。

「ボーシャンタワー。囚人を幽閉するために用いられてきた塔じゃよ」

「囚人……」

シロナはしばし息を潜め、タワーの内壁を見渡した。

石造りのせいだろうか、青空が見える窓の外とは対照的にどこか薄暗く肌寒い。

「壁を見てみい」

教授がコツと杖を鳴らして言った。

見れば、壁のあちこちに何かの紋章や名前が彫り込まれていた。

「これは?」

「それらはみな、かつての囚人達が彫り込んだものじゃよ」

「これ全部?」

シロナが驚きの声を上げた。