『大丈夫、心配しないで』

あの時、早紀はそう言って僕に精一杯微笑んでみせた。

早紀には見えて、僕に見えていなかった何かがきっとある。

『私には、どうしても早紀さんがそんなことをする女性とは思えないの』

昨夜のシロナの言葉が蘇る。

……分からない。

僕は、本当に何か大切な何かを見失ってしまったのだろうか。


「場所を変えようかの」

両手で眉間を押さえている僕の肩を、山猫教授がそっと叩いた。

シロナが心配そうに僕の手を取った。

「大丈夫だよ」

と僕は微笑んでみせた。

それからシロナの手を握り、教授の背中を追いかけた。