確かに複雑だ。ましてやジェーンが筆頭王位継承権を持たないとなれば、誰もが躊躇ったに違いない。

時は混沌の時代。

それはひとえに、ヘンリー八世を取り巻く王室の不道徳に起因していた。

クーデターとは思わないまでも、何らかの陰謀の匂いを感じた者も多かったろう。

同時に、目の前の少女の行く末を危ぶんだに違いない。

ジェーンはどうだろう?

彼女は世間知らずではあったが、聡明な女性だったと言う。

もしかしたら、自分の未来が彼女には見えていたのかも知れない。

早紀は?

早紀はどうだったろう?

暗澹たる思考の中で目眩を覚え、僕は静かに目を閉じた。

死に向かって身を投じようとしている少女の姿が、いつしか僕の中で早紀の笑顔にすり替わっていった。