「1553年7月10日、ジェーンはこの水門をくぐって入城したんじゃ」

「入城?」

「そうじゃ。新しい女王として戴冠式に臨むためじゃよ」

教授は人だかりを避けるように立ち、おもむろに語り始めた。

「ジェーンは当時まだ十五才。しかも彼女は美しく清らかで、誰もがみな、熱いため息をこぼしたもんじゃった」

……しかし、

と言って教授は口をつぐみ、その大きな瞳をすうと細めた。

「決して誰も、女王を歓喜の声で迎え入れようとはせなんだ」

「なぜ?」

「戸惑ったんじゃろうな」

「どうして?」

シロナは首を傾げた。

山猫教授はどこか寂しげな表情で古い石造りの水門を撫でた。

「突然王の死を知らされ、ジェーンの即位を告げられたんじゃ。お主ならどう思う?」