客人はいかにも英国紳士と言った風情の初老の男性だった。

燕尾服にシルクハット、手にはピカピカの黒いステッキ。

僕はふと昔読んだ児童書を思い出した。

これで丸眼鏡でも掛けていれば、まるでアルセーヌ・ルパンだ。

「おはようございます。今日はお迎えにあがりましたぞ」

客人が恭しく一礼した。

その声を聞いた瞬間、僕はあっと声を上げそうになった。

「わざわざどうも」

隣でシロナが可笑しそうに笑った。どうやら彼女は最初から客人の正体に感づいていたらしい。

「そんな風にもなるんだ」

僕は僕よりも少しばかり背の高い山猫教授を見上げて言った。

「以後お見知りおきを」

何食わぬ顔で教授は言った。

今にも頬から自慢の三本髭が飛び出してきそうな気がした。