バスローブ越しにシロナの肩が僕の背中にふわりと触れた。

彼女の髪はまだ少し濡れていて、甘いシャンプーの香りが僕の鼻孔をくすぐった。

「買ったの?」

「暇つぶしに読もうと思ってね。日本から持ってきてたんだ」

「うそ!」

シロナは驚きの声を上げた。

僕は続けた。

「本当さ。今日の山猫の話で思い出したんだ。そう言えば確か似たような話を機内で読んだなってね」

「それで?」

「ああ。ここだ」

僕はページを繰る手を止め、漱石がジェーン・グレイについて書き記した箇所をシロナに見せた。

「……これだけ?」

「みたいだね」

「なんだ」

シロナは拍子抜けした様子でカクンと肩を落とした。