これまでの幼少期は、ジェーンにとって本当に平和で幸せな日々だった。

ジェーンは六歳で聖書を読み、七歳でフランス語など四カ国語を学び始めた。

他にも宗教哲学や歴史、ダンス、乗馬など、あらゆる英才教育が施され、彼女はそれをことごとく吸収していった。

ジェーンは聡明だった。

だが、同時にジェーンは大切に育てられ過ぎたのである。

それゆえに偏っていた。

"人"というものを学ぶ機会がなく、現実を知らな過ぎた。

またそれは、彼女を取り巻く大人達にも同じことが言えた。

1553年、ジェーンの父は十五才になったばかりの娘を呼びつけ、いきなりダドリー家の長男ギルフォード卿との婚約を告げた。

それは、ジェーンにとってあまりに突然な政略結婚であった。

父は、娘の体に流れる血を利用し、売ったのである。