「間違って古紙回収の日にマニュアル〜基本〜を捨てましたが」


 きっぱりと言い切る彼女には、悪びれなんて毛頭ない。むしろ、清々しいくらいにそれを古紙回収に出していたのを自室から見て知っているツェルゴールは彼女らしいと思い、再び声に出して笑った。


「ご用はなんでしょう?ツェルゴール様」


「ん?暇」


 ツェルゴールのその言葉を聞いて藤花は眉根を密かに寄せた。その表情は自分は暇ではない、と語っている。


 そんな彼女の心情を知ってか知らずか、彼はソファで横たえていた体を起こして足を組んで座り直した。


「まぁ…暇っちゃ、暇なんだけど…」


「どうなされたのです?」


 彼は、結構感じたことを率直に言うことが多いのだが珍しく歯切れ悪かった。珍しい、と思いながらも藤花は先を促した。


「んー…ちょっと、ねぇ?………取りあえず、クローゼット見てくんね?」


 尚も歯切れ悪く、今度は背後にあるクローゼットを指差しながら言うものだから藤花は疑問符を沢山浮かべながらその扉に手を掛けた。


「……………?」


 ゴトリ


 鈍い音を立てながら扉を開けた瞬間彼女に何かが倒れてきた。


 見ると、向日葵のように明るい金に白い肌によく映える黒い長袖のシャツに黒のブーツカットのズボンが自分に凭れ掛かっていた。