「話を持ち出してきたのはお前だろ」

「なんの話?」

「ナトリウム」

「ナトリウムの話は海人じゃんか」

「味の素の延長だろ」

「そうだっけ?」

「そうだよ」

「まあ、いいじゃん。細かいことは」

そう。どうでもいい。味の素が塩になろうが、ウランになろうが、僕らにはどうでもいい。それよりも重要なことがたしかにある。この美里高校の意味のない閉鎖的な祭りをどう切り抜けるかだ。

といっても、祭り全体はもう終焉に向かっていて、あとは最後の閉会式まで時間をつぶすだけだった。休憩所の外では「イカ焼き完売しました!」と大きな声で言っている。

「帰るぞ」

「なんで?」

「片付けなんてめんどくさいことやってらんないし」

「でも……悪いよ」

「じゃあ勝手に帰るから」

「やだ」

「どっちなんだよ」

「みんなにいってくる。帰るって」

「そんなのが通るわけ……」

僕がいいきる前に、沙希は休憩所を飛び出していた。

いつだってこうだ。人の話はあまり聞かないくせに行動だけは人一倍早い。おまけに、ろくな結果にならないんだ。ドラマの新人刑事も真っ青。

けれど、この時は違った。見事なまでに僕らはすんなり帰路についたんだ。