何も言わず、夏樹が明菜のケータイを拾い上げる。



もしかしたら、明菜と同じケータイの人がここでケータイ落として


たまたま友達から今電話がかかってきたから鳴ってるだけなのかも


というかすかな期待は、ディスプレイに映る『夏実』という字に砕かれた。




あたしは橋の下を見下ろした。


ここから落ちれば、きっと死ぬ。


特に泳げない人なら。


あたしも……


ここから落ちたら……?




「夏実っ! 危ねぇよ」


フラフラと橋の下を除き込むあたしの肩を、夏樹がグッと掴んだ。



「でも……」


涙目になるあたしを、夏樹が優しく抱き寄せる。



何も会話はなかった。


ただ、あたしの涙が夏樹のシャツを濡らした。