「……夏実…」


ふと顔を上げると、目の前に夏樹がいた。



あ。


そっか。



前言われた通り、ステージ裏に来てたんだ。


ライブの余韻が強すぎて、ちょっとボーッとしちゃった。



「夏実…」


「…カッコ良かったよ! 夏樹」


あたしは夏樹の言葉を遮った。



「カッコ良かったよ、今日の夏樹。 あんな夏樹、初めて見たもん。 ビックリした」


あたしは顔をひきつらせて、無理やり笑顔を作る。



「おい、夏実……」


「また呼んで。 そしたらあたし、友達に夏樹のこと自慢しちゃおっかなー」


「…夏実!」


「そしたらあたしに歌ってよ。 『夏実に捧げます』とか言っちゃってさ」


「夏実!」



あたしは、その瞬間夏樹にものすごいスピードで抱き締められた。