あたしは口をつぐんでそのまま立ちつくし、決意した。
「村沢夏樹。 もうすぐ付き合って1年になる、大切で大好きなあたしの彼氏です」
あたしは夏樹に差し伸べていた手を、今度は絢に差し伸べた。
「深海絢……」
と、ここまで言って言葉に詰まった。
あたしは絢の事を、知らなすぎる。
バーでバイトしてる、とか?
〇〇会社の会社員、とか?
だから何なんだろう。
あたしと絢の、人間としての関係には、名前がない。
だから、何も分からない。
何も言えない。
「深海絢」
その時、横から少しかすれた声が聞こえてきた。
「深海絢。 夏実京子ちゃんの高校時代の親友の、ただの元カレです。 そいつからよく話聞いてて、面白い子だなって思っただけだから。 何にもやましいこととかないし」