ボゴッというか、ドス、みたいな


そんな音が耳に響いた。


絢が殴られた瞬間に、なんであたしはこんなに近くにいて目を開けていられたのか


よく分からない。


バカみたいだけど、『こんな近くで人が殴られるのなんてもう見れない』、とか


あたしのことだから思っちゃったかもしれない。


涙でメイクがぼろぼろのあたしと、口から血を流している絢の視線が一瞬絡まった。


でもあたしはそれを無視して、また絢を殴りにかかろうとする夏樹にしがみついた。


「夏樹ッッ! この人悪くないから!」


悪くない、なんて自分で口に出して、その言葉の軽さに笑ってしまいそうになった。


その言葉を聞いた夏樹が手を止め、ゆっくりあたしを見た。


「なぁ、夏実……?」


「なっ…何…?」


「俺…本当にお前の事信じていいか、分かんねぇよ……」