「…っ痛……」
額をさすりながら顔を上げる。
「返してほしい?」
あたしの頭上にあるのは、ニヤニヤと楽しそうに笑う深海絢の顔。
「っていうかあたしの! 拾ってくれてありがと! だから返して!」
もう一度手帳に向かって手を伸ばす。
が、またあたしの手は空を掴んだ。
「ただじゃあ……ねぇ」
まだ不敵な笑いを浮かべている深海絢は、手帳をカウンターの下に戻してしまった。
「ちょっとぉ! 返してよ! それ、大切な物なんだから!」
深海絢は「まあまあ」とあたしをなだめると、あたしの目の前にフルーツの盛り合わせを置いた。
「……バカにしてんの?」
好きな食べ物で誘惑しているんだと思って腹が立ち、思わず声を荒げた。
そんなあたしの顔の前に、深海絢は一本の指を差し出した。
「条件。 1つだけ、条件がある」