彼女と初めて話した日から、私と彼女の間には不思議な空気が漂っていた。


彼女と話す姿を、千里はこう言った。

「何だか奇妙な関係ね」


私の気持ちに勘づいてる証拠だなと、千里の背中を叩いた。


「あの子ね、話すと良い子なの」


「はいはい」


溜め息混じりの声と、はにかんだ微笑みで、千里は胸の前で組んでいた腕を外した。


「嵐は知ってるのかしら」

「何を?」

「大きく分類すれば“イジメ”」


千里の言葉で、紙を拾って泣いていた彼女が浮かんだ。

「知らないんじゃない?」

「知らないんだ」


千里は何が言いたかったんだろう。

それっきり、嵐の彼女の話はしなかった。


その日トイレから出ると、嵐が隣の男子トイレから、濡れた手をブンブン振りながら出てきた。

「ハンカチ貸して」

嵐は、温かい目と冷めた声で言った。


このギャップ。

これが嵐。


拭き終えた後の、少し湿りを含んだハンカチを嵐に差し出し、乱暴に水分を拭き取る嵐の手を見ていた。


「アイツが、喜んでたよ。プリント拾ってくれたんだって?」

「あー…別に普通だから」

「サンキュー」

ハンカチのお礼なのか、プリントのお礼なのか、解らなかった。