お昼休み、お弁当を完食してもまだ物足りないので、千里と購買へ向かった。

多少行列が緩和されていたが、最後尾に並び目当てのパンが残っているのを願っていたら、ふと、気付いた。


嵐が近くにいる。

嵐の笑い声が、マイクを通したかのように、まっすぐに響いてきた。


「嵐がくる」

「え?嵐?」

「傘が欲しい」

「何?天気の嵐なの?」


背後の窓から、空を覗く千里の姿に思わず吹き出し


「違うよっ」


と涙が出る程に笑った。


「ややこしいわねぇ」


千里は怪訝そうな顔で、列に並び直した。

嵐が近付いてきて、私たちの後ろに並ぶ。


「俺のも買って」

「じゃ、奢ってよ」


千里が嵐の相手をする。
私は、背中を向けたまま、嵐を見れずにいた。


「雨宮、どした?」


嵐に問われ、笑顔を作って振り向いた。


「何もないよ?私も奢って」

「お前ら…」


クスクスと笑って、歯を食いしばる嵐のお腹に、右手で軽く一発入れた。

順番が来て、目当てのパンの在庫を確認した時、後ろに並んだ嵐が言った。


「おばちゃん!!俺が払うから!!」


私は、本当に傘が必要なくらい、泣きそうで、誰からも隠れたかった。