近くの駅に着いた嵐は、切符売場から少し離れた場所で、壁にもたれていた。

私に気付いた嵐は、穏やかな笑顔を浮かべ、私に近付いてくる。


分かってる…。

この人は、彼女の彼。


だから、

だから、これは特に意味を持たない待ち合わせ…。


「走って来たのか?」


悪戯な笑顔と口調で、私の足を止めて、私を友達に戻していく。


「走るわけないじゃない」


私が素直になる必要はないと、その必要性なら感じていた。

土地勘のない嵐に、どう過ごすか尋ねるのも悪いので、毎年花火大会が行われる大きな川を歩く。

途中、コンビニで飲み物やお菓子を買って、適当な場所で腰を降ろした。


「綺麗な所だな」


ペットボトルのキャップを回しながら、川の向こうの夜景を眺める嵐。


「昨日、あれから寝れたか?」


斜めに角度をつけて、私を見る嵐。
近くてドキドキする。


「速攻、寝たわよ」

「ははっ。さすがに体育大会は疲れるよな」

「寝れなかったのは嵐でしょ?」

「俺か…確かにな」

「え?寝れなかったの?」

「いや…冗談。速攻寝たよ」


私は見逃さない。

一瞬の表情の曇りさえ、私にはスローモーションのように見える。


「嵐…何かあったんでしょ?」