どれくらい眠っていたのか、現実へと導く携帯の音が、段々と鮮やかに聞こえてきた。


「も…しもし?」

「悪い…俺…」


嵐の声で、全ての機能にスイッチが入る。


「どうしたの!?」

「美月に謝れって、散々怒鳴られたよ…」

「千里が…?」

「行けなくなって、本当にごめん」

「いいよ…急な約束だったし」


なんて、嘘に近い言葉を吐いた。


「かなり待ってくれたんだろ?」

「千里と一緒だったから、大丈夫だよ」


嵐の呼吸の向こうで、車の通る音が聞こえてきて、こんな時間なのに、嵐は家にいないと気付いた。


「嵐…?」

「初めてお前に電話したのに、こんな会話でスマン…」

「ううん…早く家に帰らなきゃ…」

「外だって分かるのか?」


嵐の様子が変だと、私が気付かない筈はない。


「分かるよ」


何があって、駅で会えなかったのか、どうして今、嵐が外にいるのか、私には分からない。

できるなら、今すぐ嵐の傍に行って、顔を見て確かめたい。

もしかして、何かに傷ついてるの…?


「嵐…?大丈夫…?」

「…あぁ。この埋め合わせは必ずするよ」


嵐の声のトーンが戻っていく。


「期待しないで待ってる」

「期待しろよ」


期待するだけ、落ちる角度が急なのは、今日思い知った。
だから、必要以上求めない。

嵐から掛かってきた初めての電話は、切なくて苦い電話となった。