ホテルを出て、しばらく歩いていた。

考えるのは、五十嵐のこと。

あいつは、幸せになれるよ。

所詮、私は秘書。

もっと言うならば、一般人。

でも…。

涙が頬を伝うのは、何故?

何で私、泣いてるの?

泣く必要なんて、ないじゃない。

ザーッと、雨が降ってきた。

よかった…。

泣き顔を、隠せるから。

濡れた顔だって、わからないよ。

突然の雨に周りが急ぐ中、私はどうにもできなかった。

ただただ、降りしきる雨の中を歩いていた。

その時だった。

「おい!」

その声に振り返ると、五十嵐だった。

走ってきたのか、呼吸が乱れている。

そして、びしょ濡れだった。

五十嵐は私の前で立ち止まると、
「誰が帰ってもいいって、言った」
と、言った。