「最低よ!

あんたは最低よ!」

嫌だって言ってるだけなのに、どうして涙が出てくるの?

私は奥さんの代わりじゃないのに。

代わりとして、抱かれたくないのに。

五十嵐は私を見ているだけで、何も言わない。

「今日限りで、秘書を辞めます」

「…はっ?」

五十嵐が聞き返してきた。

「五十嵐雄平様の秘書を、辞めます」

「ちょっ…何言ってんだよ!」

パン!

乾いた音が響いた。

五十嵐は頬を押さえた。

私は彼の横を通り過ぎると、部屋を出た。


仕事だから何よ。

所詮私は奥さんの代わりでしょ?

奥さんに似ているからって言う理由で、私を秘書にしたんでしょ?

私は奥さんの代わりじゃない!

でも、頬を伝う涙の理由が、よくわからなかった。