「マズい」

その言葉に、私は向いた。

オーケストラを見る1人の男がカウンターに座っていた。

グレーのスーツに、黒いシャツ。

身なりからして、ビジネスマンのよう。

けど、長髪のオールバックにサングラス。

……まさか、あっちの人じゃないよね?

男は私に気づいたのか、
「酒のことじゃねーよ」
と、言った。

じゃあ、何がマズいのよ。

男はオーケストラに視線を向けた。

「この店は、ずいぶんヘタクソなオーケストラを雇ったもんだな」

な…何ですって!?

カチンと、私の中で何か音がした。

「お客様、それは失礼ではないでしょうか?」

私は言った。