美咲に目を移すといくらか落ち着いた表情をしていた。
いつの間にか美咲のコースターには温かそうな湯気を醸すマグカップが乗っていた。
中身はココアのようだ。

再びマスターに視線を戻すとすでに私たちに背中をむけていた。
奥にいる男性客と話をしているところだったようだ。

なんと声をかけようか迷っていると
「あんた良い店知ってんじゃん。オシャレでマスターが渋くてかっこいい。」
言い終わると美咲はいつものいたずらっ子のような表情を浮かべて私に顔を向けた。
しかし、目は真っ赤に腫れ、目尻にはまだ涙が浮かんでいた。
何か言わなくちゃと思うのに何も頭に浮かばなかった。
「でしょ。」
やっと出た言葉がこれだった。
この時の私の顔はきっと歪んでいただろう。