どこに向かうでもなくひたすら無言で歩き続けた。
7時は回っただろうか。
いつの間にか来たことのない道に出てしまい、さすがにまずいと思い美咲を呼び止めようとした。
そこで、来たことすらないはずなのに、なぜかこの先を行くとバーがあると確信する自分がいた。
デジャブというやつだろうか。
やはりバーがあった。
まだ歩き続けようとする美咲の手をひき、中に入った。
店内には4、5人の客と店主しかいなかった。
静かな店内では会話はほとんどなく、ジャズだけが小さく流れていた。
カウンターの端に座り、水割りを頼んだ。
バーだけでなく、マスターにも記憶がある。
忘れているだけで来たことがあるのかもしれない。
店の雰囲気も、音楽もかなり私好みだ。