待ち合わせの居酒屋に行くとすでに涼子と馨は来ていた。
私の姿を見て、顔が強張ったのがすぐに分かった。
美咲をチラッと見ると、楽しそうに笑っている。
この悪魔め。
涼子と馨のことは知ってはいたが、ちゃんと話したことはなかった。
適当に挨拶を済ませて、当たり障りのない会話をしていると、A大法学部が現れた。
1人は長身で顔も整っていてオシャレな感じの人だ。
他の3人は、高校まで勉強一直線で大学からオシャレ始めましたって感じの勘違い男。
きっと涼子と馨は長身オシャレ男に狙いを定めるだろう。
美咲にもできればこいつを狙って欲しい。
だいたい他の三人じゃ美咲には釣り合わない。
チラリと美咲に目線を移すと、今まで見たことがないほど青ざめた顔をしていた。
気分でも悪くなったのかと肩に手を置き、声をかけようとすると、前に座ろうとした男が声を出した。

「えっ、美咲??」

知り合いなのかと思ったが、美咲の様子を見る限り、少なくとも良い知り合いではないのは確かだろう。
A大に知り合いがいるなんて聞いたことがない。
どうしようかと悩んでいると、違う男が喋り出した。

「陽介、その子お前の知り合い??めっちゃキレイじゃん。お前モテるからなぁ。」

へらへらと喋る男と陽介と呼ばれた男を交互に見る。
『陽介』
美咲の元カレも陽介だったはずだ。
まさかそんな偶然があるだろうか。
とりあえず美咲と話をしようと、気分が悪いみたいだからと言って、トイレに連れて行った。
洗面台に手を置いたまま青ざめめ震えている。
できるだけ優しく背中を撫でた。

「あの人、陽介って呼ばれてたね。もしかして」

そこまで言って美咲のか細い声に遮られた。

「まさか来ると思わなかった。例え会ってしまっても笑って流せるって思ってたの。こんな風になるなんて。私、まだ好きなのかな。」

こんな姿の美咲は初めて見た。
感情の起伏も激しい方ではないし、人前で弱さを晒すことはなかった。
それだけに美咲がどれだけ陽介が好きなのか、今どんなに辛いかがひしひしと伝わってきた。
何も言えず、ひたすら背中を撫で続けた。
途中嗚咽が聞こえ、泣いているのかもしれないとも思ったが、確かめる気にはならなかった。
2、30分ほどそのままいると、少し落ち着いてきたようなので、今日はもう帰ろうと言い、美咲を残したまま、バッグを取りにトイレを出た。