「お見舞いを」
という佑のお母さんの申し出を丁寧に断ったのは、ママに知られたくなかったから。
佑のお母さんもすぐにその気持ちを汲み取ってくれて、きれいな花束だけ私に渡した。
そして、もう一度謝ってくれたんだ。
「あの時・・・本当に失礼なことをしてごめんなさいね。今さら言っても遅いけど・・・」
多分、言ってるのはあの茶色の封筒のことだと思う。
私は首だけ横に振って、ようやく笑うことが出来た。
お母さんが正面玄関から出て行かれるのを見て、私は気づいた。
私、笑えるようになってる、って。
佑と別れてから、自分の感情をどう出していいのかよくわからなくて、
ママのいるこの病院から近くに借りたアパートでただ、声もなく意味もなく
涙が勝手に流れてくることがよくあった。
それは自分でも戸惑うほどだったけど、
その日を境に、なくなることはなかったけど、
すこしずつ笑える量がふえてきたような、そんな感じがしてたんだ。