藤さんにあたためられて生まれた笑顔は、バスが目的地に近づくにつれすこしずつ硬くなっていった。



「よしっ!」



ひとつ気合を小さく入れて、私はバスを降りる。



そこは小さな病院の前。


その横に立つ小さなアパートに向かって私は歩いていった。



消えかかった電灯の明かりを気にしながら廊下を進んで、木のドアを開ける。



表札には何も書かれていない。



開けると薄暗い部屋の中には誰もいるはずもなくて、



私は大きいカバンの中に朝たたんでおいた着替えを入れて、そのまま部屋を後にした。