「あなたが納得してくれて、お互いにいい方向に決まれば、あなたのお母様の病院の手続き一切こちらがいたします」



涙が、こぼれた気がした。


けど、頬をさわっても実際は涙は流れていなかった。



助けて…助けて、祐…。



ズキンズキンと痛みが増していく胸を手で押さえた。



「別れないと、祐は夢をかなえられないんですか?」


やっとの思いで声を出す。


「そうね。今の医者の世界じゃちょっと難しいかもね」


「そう…」

ですか、が続かなかった。




廊下の向こうでお父さんの笑い声と、祐の声が聞こえた。


通り雨だったんだろうか、


雨の勢いが止んで、再びししおどしの音が響き渡る。


日差しが戻ってきた。



「こちらからお願いばかりで申し訳ないわ。これを…」


と言ってお母さんが取り出したのは、茶色い封筒。


あぁ、ドラマでよく見る。


手切れ金、ってやつ?


でも、こんなに見るだけで腹が立つものだなんて思わなかった。