「けれど、それは全部二階堂の名前を守るためのものなの」



私はお茶から目をあげて、お母さんの顔を眺めた。



お母さんは、私を見つめたまま、もう一度ゆっくり言葉を発した。



「祐と別れてください。あの子には……婚約者がいるのよ」


いやです、


って言いそうになった私の言葉はあっさりと驚きで隠されていく。


婚約者?


「そんな話…」


聞いてない。


「あの子には小さいときにしか話をしたことはないから覚えてないのかもしれないけど、来年その約束の年がきます」



再びうつむいた私に向かって、お母さんは少し声を低くして言った。


「すぐに別れるって思ってたのに、意外と長い間お付き合いが続いてしまってるみたいだったから、今日それをお願いしようと思ってたのよ。あなたのこれからのこともあるでしょ?」


「いや…です…」


震える声は強く降り出した雨の音にかき消されたように思えて、私はもう一度声を出した。


「いやです。私別れたくありません」