膳は急げ、じゃないけど俺たちは早速その日のうちに東條に連絡を入れた。
さてこれでひと息つける。なんて思ったんだけど。
俺たちは肝心なことを見落としていた。
「なぁ、メジャーからインディーズに戻るのはいいんだけどさ。今の事務所との契約、切らなきゃ始まんねぇんじゃないの?」
ふと、思いついて言った俺のその言葉に、ショウもライも一瞬で固まった。
……あ、誰も考えてなかったのか、やっぱり。
俺たちの事務所はアーティストによっても契約期間が違うらしいのだが、俺たちCrimson Scarは……。
「え?タキさんたちの契約期間ですか?なんでそんなこと……」
「いいからオマエなら分かるだろ、櫻井」
翌日の雑誌の写真撮影。車でマンションまで迎えに来た櫻井は不思議な顔をして運転席から俺を振り返った。
「そりゃ事務所に問い合わせれば分かるとは思いますけど……え?!ま、まさかタキさん……」
櫻井は焦ったように表情を変え、俺の顔を凝視した。
どうやら、こんな時ばかりはコイツも勘が鋭くなるらしい。参った。
「……俺が直接訊くわけにはいかないんだよ。できればこっそり調べてくんない?」
「こっそり……は、はい。分かりました」
俺は車をスタートさせた櫻井の、不安げな表情をジッと見つめながら小さく溜め息を吐いた。
少しだけ胸騒ぎが、していた。