……彼は歌わなかった。
いや、歌えなかったのか。
液晶画面に映った彼の表情は、感情を失くし、能面のようだった。
焦点の定まらないその視線の先に、何を見ていたのかなんて……分かりすぎるほどに理解できた。
彼が、彼らが乗り越えなければならない“それ”は、外側から眺めている私たちにはしごく簡単で、単純なことなのかもしれない。
しかし、当人たちにとってはとても重要で困難、この先彼らが進化し続ける為にも必要なことだ。
私は、早く彼らに気付いて欲しかった。
触れるのが怖くて、避けるだけ避けて、目を覆ってそれを見ないようにして。
結果どうなった?
彼らの音楽は、中身のない上辺だけの乾いた音に成り下がった。
並べられた言葉を、心のこもらない声でなぞり、ただ吐き出すだけ。