で、俺は今やりきれない気分で煙草を吸っていた。
目の前の灰皿には一箱分の煙草が山になっていた。
「あーあー、そんなに吸っちゃって、体に良くないよ~」
不意に煙草を持つ手が翳ったと感じた瞬間、頭上からのんびりした声が降って来た。
この声……。
ゆっくりと顔を上げればそこにはにこやかに微笑む、一人の男。
「今にも泣きそうな顔だね?」
「……何してんだよ、海斗」
「何って、収録だよ。深夜の音楽番組、俺たち出させてもらうんだよ」
にんまり笑って自慢するように言うこのボーカリストの顔が眩しかった。
「ね、タッキーも収録?」
「あぁ、この後生放送…」
「マジで?!生ってことはアレ?あの……れ?なんだっけ番組名」
キラキラした目でどんどん話し出す海斗に、少しだけ気が紛れる。
ったく、コイツはいつでも神出鬼没だ。
「ミュージックライン、だよ」
俺は苦笑いで答えを言ってやる。すると、そうそう、なんて頷きながら海斗は納得していた。