そして、何事もなかったかの様に彼の仲間が眠る所に戻ろうとするが……


『……十夜』


不意に名前を呼ばれ、彼の……十夜の足が止まる。

声がした先、家の出入口付近を見つめ十夜が小さく呟いた。


「……澪、か。いつからそこにいた?」
『今さっきだ。……お前の声が聞こえたからな』


一瞬、目を反らす十夜だったが諦めた様に溜め息を吐く。


「流石、黒狼…だな」
『この様な事は―……』


澪の問いに、十夜は首を横に振る。


「なかった、こんなの初めてだ」


十夜は自分の左腕を強く掴んだ。


「澪」
『何だ?』


次の瞬間、澪は目を見開く事となる。

……十夜が、深く頭を下げていたのだ。


「頼む、この事は……あいつらに言わないでくれ」
『…………。』


澪は、何も言わない。

十夜は頭を上げないまま、言葉を続けた。


「只でさえ、あいつらには俺のせいで無理させてる。これ以上……心配、させたくねぇんだ」


不意に、十夜は頭に温もりを感じた。

澪が十夜の頭に手を乗せたのだ。