……お前の母さんの話を聞いて泣いた、なんて言える訳がない。
どうにか誤魔化そうと、考え抜いた十夜が言ったのは――……
「…………そう、この涙はお前がいない間に理緒に数十回殴られたんだ。それが痛くて痛くて…」
「はぁ!!?」
突拍子もない十夜の発言に、理緒は目を点にする。
「ちょっと、十夜あんた何言って……」
「理緒ねーちゃん」
制裁代わりに、十夜を殴ろう拳を振り上げた理緒だったが、暁に名前を呼ばれ理緒の動きが止まる。
「あんまり十夜にーちゃんを、なぐっちゃダメだよ?」
暁の純粋な瞳に見つめられた理緒は、振り上げていた拳をそのまま自分の膝に置いた。
「……分かったわ、暁」
「ありがとっ、理緒ねーちゃん」
にっこりと笑顔を見せ、暁は再び外へと駆けて行った。
その背を見ていた日向が、呟いた。
「……暁は元気ですね。周りも元気にしてくれる」