サラリと髪を掬う佐和さんの指先が私の首筋に触れる度、心臓が痛いほど脈打った。


「綺麗な髪」


佐和さんはドライヤーを止めて私の髪に口づけをする。


もう無理です。

限界です。

胸がぎゅっぎゅと締め付けられるように痛い。


「ありがとうございます」


たった一言お礼を言うだけで精一杯な私は何故か涙が込み上げてきた。


「俺もシャワー浴びてくるよ。」


私の様子に佐和さんが気付かないはずはない。

だけど聞かれなくて良かったって胸を撫でおろした。

聞かれたってどうして涙が込み上げるのかわからないんだ。


ぎゅうぎゅう締め付けるような胸の痛みを説明なんて出来ないんだ。


「テーブルの荷物、悪いけど冷蔵庫に入れておいてくれ。」


ドアを隔てて佐和さんの声が聞こえた。


私は返事をして荷物の片付けをするためにソファーから立ち上がり、テーブルに移動した。


袋の中にはサンドイッチやおにぎり、それにミネラルウォーターやお茶にジュース。

おおよそ二人分とは思えないほどのたくさんの食べ物と飲み物が入っていた。


だけど、そんな事を考えながら片付けをしているうちに胸の痛みも取れて、いつもの自分に戻っていた。


「スッキリした。
ごめんな、片付け大変だっただろう?
ありがとう。」


肩にバスタオルをかけたままの佐和さん。

髪から滴がポタポタと落ちている。


「大変じゃなかったですよ。
だけどたくさんあるのにはビックリしました。」

くすくすと笑いながら話せる私は、いつも通りの私。


胸の苦しさも今は感じない。


「それより佐和さんも髪、乾かさなきゃ。」


洗面台の棚にドライヤーを取りに行ってコンセントに差し、ソファーの前のローテーブルに置いた。


「座って下さい。」


躊躇する佐和さんの手を引いてソファーに座ってもらう。


少し強引だけど私だってお返しがしたいんだ。


してもらうばっかりは嫌だもん。