殿と紫衣の対面の席からはずすように殿に命じられた俺はスゴスゴと紫衣のために用意した部屋に戻った。
「あら、紫衣はどうしたのです?」
朱里は片付けの手を止めて俺に話しかけた。
「殿に席をはずすように言われたのだ。」
心外だという思いを朱里にぶつけるように言葉を零す俺の姿に朱里は大きな声を立てて笑い出した。
「それでそんなに苦虫をつぶしたようなお顔をしていたんですね。」
ケラケラと笑いながら話す朱里を睨みつけることしかできない俺に朱里は任せておいて下さいと言い残し部屋を出て行った。
心配で仕方がない。
緊張のせいか体を震わせていた紫衣。
殿を信用していないわけではない。
ただ、強引に事を進めた俺の判断に不安が募った。
考え込むようにして座っていた俺の前に音もなく朱里が現れ、守備は上々だとその艶やかな唇が告げた。
俺はホッと胸を撫で下ろし朱里を抱きしめた。
「不安だったんですね。紫衣は大丈夫でございましたよ。」
「それより、お前はいったい何をしてきたのだ?」
紫衣のことは心配はなくなったが朱里の行動を不安に思わないわけではない。
とんでもないことをしでかしたかもしれない。
朱里は時折無謀ともとれる行動を起こして俺を困らせる。
「お菓子を持って言っただけですよ。」
ホッとしたのもつかの間、殿が大切にしていた最上級のお菓子ですけどね。
続く言葉に俺は目を見張るしかなかった。
きっと秀吉様から頂いた金平糖に違いない。
そう気付いた俺は後で殿のお叱りを受ける覚悟を決めて頭を抱えて項垂れるしかなかった。